ナイチンゲールの精神とは
昨日の朝、一緒に仕事し始めた看護師が「もう終わり終わり‼」と言い、今朝帰っていった。おかしい、彼女は24時間働いていたのだろうか…
ここでは、医師は24時間交代。看護師は12時間交代がノーマルのはず。
受け持ちの人数は多いし、重症度も重い。これじゃ、日本人だって疲れて嫌になってしまう。誰がここで思いやりのあるケアを出来るだろうか。
まだ3ヶ月しかたっていないが、私のなかで、彼女たちは何も悪くないという結論に至る。日本人から来た人は、ナンダコレ‼全然働いてないじゃないかと言うだろう。でも、こんなに一生懸命働くモロッカンをここ以外で私は見たことがない。
ここにいるスタッフは、スタッフなりにとてもよく働き、本当に頑張っている。誰も悪くない。ただ悪循環から抜け出せないだけ。悪いのはシステム。
システムをつくり運営して評価して修正することが、モロッカンは苦手なんだという印象はある。あと、憶測したり予測したりするのが苦手で、目の前に見える世界しかイメージ出来ないようにも感じる。これは国民性であるため、ここへの働きかけは難しそうである。スタッフに向けてKYTとかやってみてもいいかもとは思うけど、大混乱を招くかもしれない。なんでそんなことやるんだと非難の嵐かもしれない。どうだろう。ゆっくり考えたい。
研修生でいつも看護長にあれこれ指図されて振り回されながらも文句ひとつ言わずに働く彼女がいる。
今朝もまさに山のようにたまった哺乳瓶をもくもくと一人で洗っていた。
「どうして一人なの?私に手伝わせてくれない?」と聞くと、真顔で「いらない。」といわれる。いったん、調乳室からでる。外にはおしゃべりし続けるマダムたち。彼女たちは椅子に腰掛け、勿論のこと手は動いてはいない。
私はいつもこの光景を見るたびに悲しくなる。そして、遠くからお腹を空かせた赤ちゃんの泣き声。
改善という概念がないから、毎朝同じ景色。これはなんなんだろうか…と自分だけが思う理由を考えてみた。
日本の看護師の道徳観なのか…心意気なのか。
看護の対象者は患者である。患者のための看護をする。困っている人がいたら助ける。仕事が大変な人がいたらみんなで手伝って終わらせる。それぞれ自分の好きな分野や必要な知識を継続的に学ぶことがよいと認識している。また多くの看護師が、今日よりも明日はもっとよいケアをしようという志を持っている。
という私の当たり前は、勿論私だけの当たり前であり、彼女たちにとって大切なことは、今日一日いかにラクをして稼ぐか。たまに、赤ちゃんをだっこして可愛がったりもしている。でも、彼らにとっての主役はいつだって自分。そこは悪い意味で揺るがない。
そこが私と彼女たちの違い。
前任の先輩もこの光景を毎日見ていたのだろう。彼女は何を思ったのだろう。
私は日本の看護師だ、自分が正しいと思うことをやろうと決め、もう一度調乳室に入る。瓶がきれいにならないことには、いくら赤ちゃんを抱っこして待っていても何も始まらない。
ドアをしっかりと閉め、周りに人がいないことを確かめてから、「あなたはいつも本当によく働いている。私は3ヶ月ここに住んだが、この国は平等ではない。ある人はずーっとおしゃべりして全く働かない。でも、あなたみたいな人はずーっと働いている。私は日本人で、日本はみんな同じ量の仕事をする。日本は平等だ。でもここは違う。あなたが沢山働いているから、私はあなたを助けたいと思う。」
「あなたの言ってることはわかった。でも、ここは平等ではない。これはノーマルだ。これがモロッコだ。」と言っていた。
沢山働かされても、理不尽だと思わないのだろうか…悔しいけど従うしかないのだろうか…。はじめは断られたが、二回目には、哺乳瓶を洗うのを手伝わせくれた。そして、洗い終わったあとに笑顔でとってもありがとうと言ってくれた。それが彼女の本音なのだろう。
ここは本音と建前の国。私は言葉も拙いし、モロッコに対してネガティブな内容を言うのには、なかなか勇気がいる。言い方も気を付けないといけない。ここではみんな建前しか話さない。モロッコの難しいところ。だから時間をかけなくてはならない。そして多面的に見続けないといけない。それは自分一人でやるには私には大きすぎる。自分のアセスメントやプランを客観的に評価してくれる人がほしい。
3ヶ月も住んでても、まだ何もモロッコのことを知らない。2年後もよくわからないだろう。そんな簡単にはなにかを理解することなんて出来ない。
そして、不思議なのは、ずっとしゃべってる人も指図されて働かされまくってる人も休憩室では仲良くおしゃべりしながらお茶するのだ。
全くわからない。でも、まだわからなくて当たり前なんだろう。
8年目にして初の柄チェロキー。サイズは採寸までしてくれてなんと上下で2000円‼みんなこっちが恥ずかしくなるくらい褒めてくれる…
ついにエロキティだけではなくなった‼
モロッコでは、新しい服を買った人にたいして、「フスハー!(よりよい健康を‼)」という。おしゃれと健康が結び付いているのは、なかなかモロッカンらしい。
つづく。